宇都宮市の中心部を流れる釜川。市街地においても水質は良好で、絶滅危惧種を含むさまざまな水生生物や在来植物が生息しています。
釜川周辺エリアを対象に「人と生き物が健やかに育まれる地域として持続させるとともに、居心地がよく魅力的な空間をつくる」ことを目的として立ち上がったのが、カマクリ協議会です。宇都宮市をはじめ、自治会、商店会、まちづくり団体などで構成されています。
釜川周辺エリアにはどのような人が集まり、どういった取り組みが行われているのでしょうか。カマクリ協議会に参画している「釜川から育む会」の代表、中村周さんにお聞きしました。
(2026年2月取材)

お話を聞いた方
- 氏名:中村周
- 所属:一般社団法人 釜川から育む会
- 役職:代表理事
1987年東京生まれ。建築家。宇都宮大学院在籍時に空きバラックをKAMAGAWA POCKETに改修して自宅兼アトリエとして使っていた。現在は、平日は東京、土日祝日は宇都宮の二拠点生活を送っている。
小規模なエリアで幅広い活動を展開したら、まちが変わった
釜川から育む会は大きく3つの分野で活動しています。その中に、カマクリ協議会との共催で実施している官民連携の取り組みも多くあります。
①エリアリノベーション
釜川周辺エリアの遊休不動産を活用した施設の設置・運営など

②生態系ネットワークの構築
釜川周辺の環境調査や清掃、石組み魚道やビオトープの設置など

③クリエイティブプロジェクト
レクチャーイベントやアートプロジェクトなど

こうした活動には、さまざまな人が関わっています。不動産の専門家や税理士の他、造園業や地理学、鳥類の専門家もいれば、デザイナーやアートキュレーター、写真家といったクリエイターも参加しています。
「来てくれた人の力をどう生かせるかを考えた結果、できることがどんどん増えていきました」と、中村さんは語ってくれました。また、釜川沿いの200mほどのエリアに8つもの拠点を設置したことによって「まちが変わった」という確かな手応えを感じているそうです。
「使われていなかった土地や建物をリノベーションしたことで、テナントが入り、お客さんが増えて、川に触れ合う人も増えました。2024年にオープンしたブックカフェ『KMGW BOOKS(カマガワブックス)』には個人が小さな本屋を開ける仕組みがあり、約100人が参加しています。つまり、『釜川エリアでお店を開いている』という意識を持つ人が100人増えたということです。釜川周辺の人流を計測したところ、KMGW BOOKSの営業日は定休日と比べて人が多いというデータが得られたので、成果があったと考えています」
さらに中村さんは、KMGW BOOKSに関して印象に残っているエピソードを語ってくれました。KMGW BOOKSが建っているのは宇都宮市が所有する土地で、もともとはポケットパーク(小さな公園)でしたが、うまく活用されていませんでした。隣接する「ふれあい広場」の活用を進める計画が始まると、ふれあい広場の維持管理を担うためにポケットパークに店舗を設置することになりました。
「それ以前からブックカフェをやりたいというアイデアがあったので、KMGW BOOKSを立ち上げました。担当したのは、当時大学院生だった理事の岩田さんです。岩田さんが初めて釜川を育む会の活動に参加したのは、大学1年生の頃でした。活動を通して、一つの事業を立ち上げられるまでに成長してくれました」

釜川周辺エリアでの取り組みによって、まちだけでなく人も変わったことが伝わってきました。
都市空間の有効活用と川の環境調査から活動をスタート
中村さんは大学院生だった頃、釜川の近くの空き家を自分でリノベーションして住み始めました。そこでマルシェや音楽会などのイベントをお手伝いしたり、開催したりするようになったのが、現在の活動につながっているといいます。
やがて、宇都宮市が釜川の景観を守ろうとして、釜川周辺の土地利用に規制を設けようとする動きがありました。しかし、規制するだけでは有効活用が進みません。そこで、「釜川周辺エリアに新しい価値を作ろう」というコンセプトで、2017年に任意団体としての「釜川から育む会」が発足しました。
活動の背景には、2つの地域課題を解決したいという思いがあったといいます。1つ目は、空き家や空き地が多かったこと。都市空間が人に使われていないのはもったいないので、活用できる場所にしたいと考えていたそうです。そして2つ目は、釜川の環境を良くすることです。
「当時、住民やお店を営んでいる人、釜川沿いでイベントをする人などから『川が汚い、臭い』という声が上がっていましたが、なぜ臭いのか、水がどれほど汚いのか、わかっていないようでした。それなら、きちんと調査をして、川の環境を良くする方法を考えようと思ったのです」

調査を行うと、絶滅危惧種も含めて多様な生き物が見つかりました。釜川から育む会のWebサイトでは、釜川に生息している生き物をまとめた「釜川図鑑」が公開されています。
釜川から育む会は2020年にカマクリ協議会に参画し、2021年には一般社団法人化しました。さまざまな取り組みを行ってきて、苦労も多かったそうです。一番大変なのは、空き家や空き地を借りたり、購入したりするにはどうしたらいいかという点だったと、中村さんは振り返ります。
「建物を使っている人に聞いても土地の所有者がわからなかったことや、土地の登記を確認して所有者に手紙を送っても宛先不明で戻ってきたこともありました。『この時期までに土地を借りられるだろう』という前提でプロジェクトを進めようとしても、そうはいかないことが多いです。『土地を借りられたらプロジェクトを進める』という考え方が大切です」

現在も、資金調達に関する課題には常に向き合っているといいます。
カマクリ協議会は、国が実施する「官民連携まちなか再生推進事業」を活用してきました。
釜川から育む会としては、「宇都宮まちなか元気プロジェクト支援(宇都宮まちづくり推進機構)」、「宇都宮市市民活動助成(宇都宮市)」、「栃木県文化振興基金助成(栃木県)」といった助成金を活用しています。
官民連携の強みを生かし、釜川と周辺全体の活用を目指す
釜川から育む会では、新しいプロジェクトにも取り組もうとしています。中村さんは、複数のプロジェクトがすでに進行中だと話してくれました。
「KAMAGAWA POCKETのすぐ裏手にある『剣宮神社跡』の利活用が始まっていて、整備を進めているところです。他には、生態系ネットワークの構築や環境調査ワークショップなどの活動を専門に行う『釜川ギョギョ協働組合』を立ち上げようとしています。これまで続けてきた活動をベースに、今後は関係団体として生き物の調査や水槽での展示、釜川図鑑の冊子制作などを行っていく予定です」
最後に、釜川周辺エリアをどういうまちにしていきたいか、お聞きしました。
「釜川を中心に、さまざまな目的を持った創造意欲のある人たちが集まって、いろいろな活動が行われる状態にしたい。そういう場所を作っていきたいです。ただし、民間団体だけでできることは限られています。川の周辺は河川や道路といった公共空間と、民間の土地が混在しているため、それらを一体として考えていくことが非常に重要です。官民連携で取り組むことの強みは、そこにあります。釜川とその周辺を一つの大きな公園のようなエリアとして捉え、その周りにたくさんのコンテンツが生まれ続ける状態をつくることが目標です。それが、釜川での活動を始めた頃からずっと目指している『人と生き物が共生できるまち』です」
釜川周辺エリアのさらなる発展に期待が高まる、力強い言葉でした。




